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『微睡の中で(9)』


□アサイチ その3

仮眠室から出てきた寅之助を迎えたのは、軽蔑の視線だった。
「やあ、きっちり自供してきたかな?犯人クン。」
吐き気がする。遅れて戻ってきただけで犯人などと言われたくない。
先ほど自分が座っていた席を探し、そこにゆっくり腰を下ろした。
座った瞬間、ひどい頭痛と睡魔に襲われた。まだ疲れが抜け切っていないようだ。
こめかみが心臓と同期を取って脈打っている。

「ちょっと、近くによらないでっ」
隣に座っていた西里さくらが、わざとらしく寅之助が座っている席との距離をとった。
寅之助はチラリと横目でその姿を見たが、頭痛がひどく、目を閉じ頭を抱えて黙り込んだ。
全員の視線が自分に向けられているのがわかった。
もちろん、好意の視線ではなく、敵意丸出しの視線だ。
常に見ていないと、いつ襲ってくるかもしれないという不安に満ちた視線。

「えー、では次の、、えっと、あなた。あちらの部屋に・・・・・・」
と土方が言った瞬間。バチン!という音とともに部屋の照明が落ちた。

「キャー」誰かの甲高い悲鳴が暗闇を貫いた。
会議室にも窓はあるが、ブラインドをすべて下ろし、その上から黒いカーテンをしていたので、
深い暗闇が会議室を満たした。

急な出来事に顔を上げ周囲を見渡したが、何も見えない。
だが一時的な事だろうと思い、また目を閉じて頭を抱えてふさぎこんだ。
周りは「電気をつけろ」「ブレーカーをチェックしろ」と混乱が起きていた。

刹那、鈍い音が寅之助の耳に届いた。
ズンっという、砂の詰まった袋を、やわらかい赤土にたたきつけたような音だ。それが2,3度続いた。
皆は聞こえていないのか、しきりに照明の明かりを取り戻そうと必死になているようだ。
普通なら、ここまで混乱を招かないのだろうが、
暗闇の中、同じ部屋に殺人者がいると思い込んでいるのでパニックになっているのだろう。

自分を犯人に仕立て上げようとしている奴等が混乱に陥っている様子はとても滑稽に見えたが、
あまり良い趣味ではない、と自分に言い聞かせた。そして窓に向かい黒いカーテンを開いた。
外は晴れている。照明が無くともカーテンを開け、ブラインドを上げれば多少の視野は確保できるだろう。
そんな当たり前のことに気づかないほど、室内はパニックに陥っていた。

窓から光が差し込むと、全員がそちらに目を向けた。
全員が窓を見たのと、田村が仮眠室から出てきたのは、ほぼ同時だった。

「どうした?照明が落ちたのか?・・・おい、土方。どこにいる?」
田村が真っ先に気づいた。机に伏せている男と、フロアにうつ伏せで倒れている男に。
そして二人とも、赤黒い水溜りを作っている。素人が見ても、死んでいることがはっきりと見て取れた。

「いやぁぁぁあぁあああぁっっ!!!」
西里さくらが涎を撒き散らしながら叫びだした。武田裕子が落ち着かせようと肩に手をかけたが
手を振り払い、ものすごい勢いで仮眠室へ飛び込んだ。その後を武田裕子が中へ入っていった。
その次に高樹結花が中へ飛び込んだ後、仮眠室の扉が勢いよく閉まった。
しまった音の直後、ガチャリと鍵の閉まる音が会議室に響いた。

「助けて!!ココにいたら殺されるっ!あいつにみんな殺されるのよおおぉお!!」
中からの声に反応して、伊勢谷大樹が動いた。すばやく管理室の扉を開けて中に滑り込んだ。
田村がすぐに反応して取っ手をつかんだが、扉は勢いよく閉まり、がちゃりという音とともに鍵が閉められた。

「あいつが、城ケ崎が殺したんだ!早くそいつを捕まえてくれ!」


悪夢が現実に漏れていた。
少なくとも、寅之助にはそう思えた。

頭痛がひどくなった。




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