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『微睡の中で(7)』


□アサイチ その1

案内されたその場所は、ビルの裏口にある管理室だった。
この管理室には、ビルの防災システムやセキュリティシステムを監視する装置が設置されており、
管理室の他、10畳ぐらいの会議室、6畳の仮眠室などがある。

会議室にオフィスのみんなが座っていた。一様に暗い顔をしている。
寅之助が部屋に入ると、一斉にこっちをみた。その視線は、まるで殺人者を見るかのような敵意のこもったものだった。
なぜ、そんな目で見られなくてはいけないのか?その視線を跳ね返すように、睨み付けるように顔をしかめて座席を見渡した。
部長の枕崎健二、課長の仁科智之、高樹結花、伊勢谷大樹、折本隼人、吉川大輔、武田裕子、西里さくら。
後は刑事と思われる年配の男がひとり、立っていた。

・・・吉田がいない。

「これで、皆さんおそろいですね」
年配の男性が重々しく、よく通る声で言った。「先ほども申しましたが、あ、貴方にはまだ状況を説明してませんでしたな。」
寅之助のほうを向いて、笑みを浮かべた。いやな笑みだと思った。
「5階にある倉庫内で、吉田雄二さんが殺害されていました。あ、私は田村といいます。」

・・・吉田がいない。

「鈍器のようなもので頭部を殴られたことによる頭蓋骨・・・」

・・・殺された?あいつが?・・・倉庫内?
なぜ?なぜ殺されるのだろうか?いったい誰が?なんの目的があって殺さなくてはいけなかったのだろうか?

「・・みなさんには、犯人の逮捕にご協力願いたく、こちらに集まってもらいました。おい土方、あとは説明できるな。」
土方が「はい」と返事するのを確認して、田村は奥にある仮眠室へ入っていった。
「では、これから皆さん順番に、仮眠室に入ってもらって、田村さんと少しお話をしてもらいます。」
「取り調べ、ということだろう?」怒ったように枕崎が言った。
「ええ、まあそういうことですね。」と、どうでもいいような感じで土方が答える。

事実、土方はこの事件に対して特に興味を抱いていなかった。タダの怨恨殺人、いつものパターン。
おそらく、この中に犯人がいる。理由はどうせたいしたことではない。
気に入らなかった、むしゃくしゃしてやった。そんなところだろう。

「では、まず貴方からお願いします。で、時計回りに順番でお願いしますね。」
「わかった。」そう答えて枕崎が仮眠室に入っていった。

「だが、犯人クンが名乗り出てくれれば、いちいち皆を取り調べなくても済むのだがな。」

そう枕崎が言った瞬間に、そこにいる全員の視線が寅之助に向けられた。疑いのまなざしが注がれる。
「じゃあ、城ケ崎さんからやってもらえばいいんじゃないですか?」
武田裕子が、汚らわしいものを見る目つきで、寅之助を見据えていった。
「私もそれがいいと思います。この後仕事残ってるし。。」と続けたのは、西里さくら。
「城ケ崎さんで間違いないんじゃないですか?いつも嫌っているようなこと言ってたし。」
「オ、オレはやっていないっ」
「じゃあ今までどこにいってたんですか!?凶器を隠してたんじゃないんですか!?」

オレハヤッテイナイ。
脂っこい汗が背中を流れる。コレもさっきの悪夢の続きなのか?オレはまだ夢を見ているのか?
そう、夢。闇の中で血だらけの鉈を持って立ち尽くしている自分がいた。
・・・ホントウに夢だったんだろうか?持っていたのは鉈だったのか?バットや大きな石ではなかったのか?
吉田を殴りつけた鈍器をもっていたんじゃないか?ホントウニオマエハヤッテイナイノカ?
じゃあ、お前が記憶のない間、イッタイドコヘイッテイタノダ?

「まだ、城ケ崎クンが犯人と決まったわけじゃないだろう。」
全員の視線が寅之助から、吉川大輔へ向けられる。
「それをコレから調べるんじゃないのか?そのために刑事さんたちが来ているんだろう?そうですよね?」
「そのとおり。」土方が答える。
「順番はどうでもいいんですけど、まず貴方から潔白を証明したほうが良さそうですね。」
そういって寅之助のそばにやってきた。「どうぞ」と促され、寅之助は立ち上がって仮眠室へ向かった。

オレハヤッテイナイ。
・・・本当にオレではないと言い切れるのか?そんな考えが一瞬だが、寅之助の頭をよぎった。




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