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『微睡の中で(2)』


□始業 その2

寅之助の勤める会社は、都内某所にあるIT系のベンチャー企業で、社員数は全部で56名。
全社員の平均年齢が36歳と、かなり若い人間が多い企業ではあるが、
前年度の売り上げが8億円であることから、それなりに売れている会社である。
少なくとも寅之助はそう思っている。

IT系、と言っても色々種類がある。
職種で言うと、プログラマー、システムエンジニア、ネットワークエンジニア、
ITコンサルタント、ITアシスタント、テクニカルサポート、Webクリエイターなどがある。

寅之助が勤める会社”フィンチ”では、ITコンサルタント会社と言える。
大きく、コンサルタント部門、アプリケーション開発部門に別れており、
顧客の要求するビジネスプランを、コンサルタントがまとめ、どのようなシステムが有効かを提案。
そして、提案するシステムを、アプリケーション部門が作成する、といった形態だ。
最も、すべてのシステムを担当するわけではなく、手に負えない仕事は業務提携している大企業に
お願いしたりしている。
また、その提携している大企業から”おこぼれ”(と寅之助は呼んでいる)をもらって、開発を行うこともある。

コンサルタント部門は、顧客に有用なシステムを提案するだけでお金をもらえる「楽な部署」だ。
だが誰でも務まるわけではなく、最新技術と呼ばれるものをすべて把握して、どんな場合にどんな組み合わせで
行うことで、どういう効果が得られるかを、知識として頭に詰め込んでいる必要がある。
また、それをうまく「言葉」にして伝える能力が必要不可欠となる。
”選ばれた人間”のみが所属することができる部署と言える。
つまりは、一般人が所属したところで、決して「楽な部署」にはならない、ということだ。

一方、アプリケーション開発部門は、コンサルタント部門が提案したシステムを”実現”する部署だ。
コンサルタントが起草した提案書にそって、そのとおりの動きをするプログラムを拵えるのだが、
まさに「言うは易し、行うは難し」というやつで、なかなか難しい。
理論的には実現できる機能だが、それには一人の人間が、複数の業務を兼任する必要がある。
プログラマー兼システムエンジニア兼ネットワークエンジニア、という風に、広く浅い知識が必要となる。

そんな仕事なので、自然と仕事量も増え、残業が多くなる。
月に100時間を超えることがよくある。

寅之助は、このアプリケーション開発部門に所属している。
仕事自体は嫌いではないので、残業もさほど苦にはならない。

7ヶ月前、大規模プロジェクトの開発が入り、連日連夜、忙しい日々が続いたが、
そのプロジェクトもようやく終息を迎え、現在では書類整理等の後片付けが残っているだけだ。

書類整理は、別段、期日が決まっているわけでもないので(もちろん次のプロジェクトが
始まる前には終わらせなければならないが)、のんびりした日々をすごしている。

いつもは2、3人で1つのプロジェクトを受け持つのだが、今回のプロジェクトは、
規模も大きいことから部員全員で取り掛かった。

吉田の行動は、忙しいときにでもトロトロしているように見えて、仕事でのイライラが3.5倍はアップする。
だが、仕事に関して言えば、一目置いていた。いや、そこだけは尊敬しているのかもしれない。
教え方もうまく(行動はムカツクのだが)、質問に対して的確に答える能力を持っている。
ダンボールをキャビネットに乗せている後姿を見る限りは、仕事のできる男には到底見えないのだが。

昼休みのチャイムが鳴り響いた。

いつもは、近くのコンビニでパンとコーヒーを買ってきて、仕事をしながら食べていたのだが、
ここ3ヶ月の間、連日連夜続いた深夜までの残業で疲れが溜まり、食生活も乱れていたので、
まともな物を食べようと、近くにあるカフェ「チェスター」へ行くことにした。




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