『恐妻家クエスト ゴブリン討伐(4)』


□ ゴブリン討伐(4)

翌朝、町の自警団と共に、ゴブリン達が住処にしている洞窟へ行く事にした。
自警団は町の男10名で構成されていた。中には高齢の人も居るようだ。
皆、それぞれに武器を携えており、どれも使い古したモノに見えた。
話では、この町には退役軍人が多くいるらしい。村長のギュモリも退役軍人の一人だ。
自警団、というよりも1部隊と呼んだほうが良いかもしれない。

村のすぐ裏には森が広がっており、村と森の境目にひとつの見張り塔が立っていた。
上から痩せた男が敬礼をしている。
ギュモリが片手を上げると、敬礼を止め、森のほうへ向き直った。

「じゃあ、再度確認だが。」ギュモリが歩を止め振り向いた。
「オレたち自警団が洞窟まであんたら二人を案内する。で、そこから洞窟に入って貰い、
オレたちは洞窟の入り口で帰りを待つ。外に出てきたゴブリン達はまかせてくれ。」
「わかった。で、俺たちが昼時になっても帰ってこない場合は・・・」
「わかってる。そんときは状況を見てオレが判断するさ。」
「ワタシは入らないよ。」と突然ヘレナが言い出した。
全員が一様に驚いた顔でヘレナを見た。
「だって、ワタシ後方支援のほうが得意だし。ね?いいでしょエディ?」

・・・私も馬鹿ではない。いくらゴブリンだからって一人で住処に突入するほど無謀なことはしない。
が、ここでヘレナのゴキゲンを損ねることのほうが無謀だということも知っていた。
「・・・いいんじゃない?自警団の人たちのこと、頼むよ。」
驚嘆と侮蔑の混じった歓声が自警団からあがった。コレはもう覚悟を決めるしかないだろう。

なんとなく、マクレイン夫婦の状況が見えたっぽいギュモリが、嘲笑とも取れる笑顔で「行こう。」と声をかけた。


森の中は、朝だというのに重たい空気が流れていた。木々は灰色に落ち込み、空は木々の枝で覆われていた。
鳥の姿どころか、泣き声すら響かず、ただ足音だけが耳に流れていた。
歩いて間もなく、灰色の林が開けたところにでた。目の前に切り立った石山があった。
「この石山を右に沿って歩いたところにお目当ての洞窟がある。そろそろ準備を。」
皆思い思いに武器を手にして構えを取った。私は特に何もしなかった。相手を確認してから準備をするのがクセになっている。
これは所謂「おぼっちゃま剣術」の名残だ。傭兵には縁のないものだとは理解しているが、なかなか抜けなかった。

少し進むと、日の光がまったく差し込まない、黒い土が広がる場所が見え、その先に大きな洞窟がどっしり腰を落としていた。
洞窟の入り口脇に二匹のゴブリンが立っていた。確かに汚いが鎧を身にまとっている。
ヘルティア国軍の鎧みたいだが死体から取ってきたのだろうか・・?
手には汚くなっている槍を二匹とも持っている。ゴブリンは人間の3分の2ほどの身長しかないため、まさに手に余る代物に見える。

「じゃあ私が門番を倒したら、入り口付近で待機をお願いします。」
「わかった。気をつけてな。」とギュモリ。
ヘレナはニコニコしながら手を振っている。なんかムカつく。(#゚Д゚) ムカー

私は岩の陰からゆっくり出て、門番のゴブリンたちの前に出た。
門番たちは私の姿を確認するなり、手に持った槍を前に向けて身構えた。醜悪な顔をこちらに向け牙を剥いている。
私はゆっくり腰に下げた剣を鞘から抜いた。左手で鞘を押さえ、右手だけで剣を持ち、醜悪な生き物に向けて構えた。
「ギィ」とガラスを擦り合わせたような声をあげ、二匹いっぺんに突撃してきた。
二匹の構えた槍が此方に届く前に、右側へ避け、前に踏み込むと同時に右手に持つ剣で下から上斜めへ弧を描いた。
槍と左首の辺りが斜めにパックリ裂け、そのまま一匹が突撃した勢いで倒れこんだ。
倒れたゴブリンからは、首からドス黒い血が地面へ噴出した。
もう一匹が怯むことなく、こちらへ方向転換したところに、剣を喉のど真ん中に突き立てた。
そのまま剣を横に振り、首の半分以上を胴体から引き離した。
一匹目と同じように倒れてから地面にドス黒い血を撒き散らした。

「終わりました。」と岩の陰に向かって声をかける。
ギュモリを先頭にして自警団がゆっくりと様子を伺いながら出てきた。ゴブリンの死体を見つけて、小さく感嘆の声をあげるものもいた。
「じゃあ、オレたちはココで待機している。」と、大きな斧を構えたギュモリが言った。

ヘレナのほうを見るが、しかめっ面でコッチを見ている。
「いちいちコッチ見ないで、はやく行って終わらせてきなさいよ。」とありがたい言葉を頂いたところで、覚悟を決めて洞窟に入ることにした。
血の付いた剣を数回縦に振り、右手に持ったまま洞窟へ向かった。

洞窟の近くに到着してから続いている吐き気も大分収まってきた。(慣れて来た?)
どうせ行かなくてはならないのが解っているので、とっとと終わらすべく、洞窟に入ろうとした私の頬すれすれを何かが掠めた。
後ろの岩肌に当たって落ちたのは、木製の矢だった。洞窟から数匹のゴブリンが出てきていた。
それぞれボロボロではあるが弓、剣、槍を携えている。お洒落さんたちは門番だけではなかったようだ。
「ひとまず引き上げよう!」と叫んで、戻ろうと振り替えった私の視界に入ったのは、”使い魔”への命令を詠唱しているヘレナだった。
「契約において汝に命ずる。我が敵を全て殲滅せよ!『突撃』!」

突然、頭に激痛が走った。”敵”に背を向けている行為が、”契約”に反する為だ。
”使い魔”の私は、敵に向かって走るしかなかった。




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