『微睡の中で(完)』


□テイジゴ


今日も見られた。
ネットリした視線っていうか、なんていうか兎に角気持ち悪い視線。
笑顔は仕事だって気が付かないのかしら?

この間、一緒に倉庫に入ったときが最悪だった。
高いところにある荷物を取ろうと脚立に立って入り口に背を向けて作業してたら、
視線を感じたから振り返ったところに、あのデブが立ってた。
「て、てつだいましょうか?」と、はぁはぁ息切らしながら。気持ち悪い。

そのシーンを思い出して身震いがした。
アイツがいたら楽しい会社環境もダメになっちゃう。なんとかしなくちゃ。

引き出しを開け、先日購入したゴムかなずちを取り出した。

素材はゴムなんだけど、打ち付ける部分に砂がいっぱいつまってて、
ちょっとの力で、ものすごく強く打ち付けることができるんだって店員さん言ってたなぁ。
叩く時に音もでないので深夜の作業も可能なんだそうだ。目的にぴったり、と思い購入した。

「あ、あの高樹さん。」
「え?あ、はい。」びっくりするから突然声をかけるなって。
「なにか踏み台になるようなものありますか?」
寅之助君だった。皆からタイガーって呼ばれている。
タイガーも大変よね。あんなデブにこき使われて。かっこよくはないけど、結構タイプなのよねコノ手の男。
「たしかこっちにありましたよ。」
満面の笑みで答えてあげた。タイガーったら照れ笑いとかしちゃってかわいい。


デブは一人で片付けもできないのかしら?お昼休みになると、そのキモイデブが声をかけてきた。
「倉庫空けて欲しいんですけど」

午後に入ってからにしろよデブ。
倉庫の鍵はセキュリティの関係上、私と部長しかもってないのよねー。まさか部長に行かせるわけにもいかないし。
「じゃあ、空けますので付いてきてください。」護身用にゴムかなづちをスカートの後ろに差し込んだ。

倉庫にいって、鍵を開けてやる。なんか倉庫の荷物を一所懸命になって取ろうとしている。
なにあのお尻。でかすぎでしょ?・・・なんか、イライラしてきた。気が付いたらゴムかなづちを右手に持っていた。
こちらに背を向けて荷物を取ろうとして背を伸ばしている吉田の後頭部めがけて、おもいっきりかなづちを振り下ろした。
ゴムかなづちは吉田の右後頭部にあたった。鈍い音がして、つぎに顔面が棚にあたりグシャっとつぶれる音がした。

店員の言うとおり、いい品物だと思った。
女の力でどれだけの威力があるか、心配だったが、目的を達成するには十分の力だった。

これですっきりした。明日からあのしつこい視線を我慢しなくて済むんだもん。
ゴムかなづちに血が付いていた。両手でかなづちを持って、吉田の髪の毛に血の付いた部分を擦り付けた。
「・・・・なかなか取れないものね。」

吉田の頭の殴った部位から大量の血が流れ出していた。

むせ返るような血のにおいに気持ち悪くなり、血を取り除く作業を中断して倉庫を出た。
高樹結花は今までに経験したことのないほどの高揚感を覚えた。セックスでもこんなに気持ちが良かったことはなかった。
充実した気持ちで、自分の席に戻った。

パトカーが到着したのは、それから40分後だった。



「微睡の中で」おわり。




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なんとなく推理小説っぽいものから始めるもんだという思い込みから書いた作品。
途中で書くのに飽きて無理矢理終わらせたんだけど、いきなり犯人が強硬手段に出るあたりとか、自分的には好き。(´∀`*)ウフフ
普通に考えたら、いくら鈍器を持っていたとしても、女性の力でこんな短時間で複数人殺せるわけがない。(゚Д゚;)

凶器は、金属棚を買ったとき組み立て用に一緒にかった「ゴムかなづち」から。
ゴムかなづちの中には、砂鉄(?)が入ってて、少しの力で振り下ろすことが出来るスグレモノ。
「女性の力でも軽々叩ける!」みたいなキャッチコピーだったなぁ。

ホントは結花と他のメンバーとの絡みをもう少し入れて、いかに結花が平静かを描きたかったんだけど、
なにぶんメンドクサクなってしまったもんで。('A`)マンドクセ