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テキスト 『ロストマン』



『ロストマン』

彼女と別れてすでに半年が起っていた
理由はもう覚えていない。

いまでも時折メールや電話でやりとりをしている。

彼女が全てだった。
家族も、友達も、彼女さえ居れば何もいらなかった。

メールや電話で、昔の話なんかをする。
付き合い始めの頃の話や、一緒に言った映画、旅行・・・。

彼女とは、始めに勤めた会社で出会った。ボクの一目惚れだった。
それから何度も誘って、ようやく始めての食事に付き合ってくれた。

一所懸命探して予約したドイツ料理のお店。
ワインが好きだって言っていたから、飲みやすいドイツワインを紹介したくて。
彼女はとても喜んでくれた。
二人とも飲み過ぎちゃって真っ直ぐ歩けなくて、駅までぶつかりながら歩いた。

ボクは上り線で彼女は下り線。そこでサヨナラ。
別れ際に彼女が「次は居酒屋に行こう。おいしい所知ってるんだ。」って笑顔で誘ってくれた。

それから何度か食事に行って、ボクから「付き合ってください」と、お願いした。
食事をした駅までの帰り道、線路の横の土手道で。
彼女は笑顔で、ひとつだけコクリと頷いた。ボクは傍に咲いていた白くて背の高い花をひとつ折り、
方膝を付いて彼女に差し出した。「よろしくおねがいします」と。
こちらこそ、と彼女が受け取った。

−−−白い花を差し出してから2年が経過していた。


彼女と別れてから、何も手に付かなかった。
何もかもが嫌になった。何をやるにも面倒くさくて、昔みたいに笑わなくなった。
そんなボクに嫌気がしたのか、友達は疎遠になっていった。とても辛かった。もっと笑わなくなった。
−−−それでもいい。彼女さえ戻ってきてくれれば。

今日、電話で話をした。
また、昔の話だった。どこのお店にいった、どこのケーキが美味しかった、観覧車は風が強くて怖かったね・・・。
現在の状況を尋ねても、「そんなことよりさ、ほら、あそこの・・・」と思い出話。

仕事はうまくいっていなかった。上司との反りが合わないばかりか、ミスも連発してしまっていた。
始めは色々とフォローしてくれていた同僚も、ひとり、またひとりと減っていき、
最近では会社で孤立してしまうようになった。
自分に原因があると解っている。だが、どうしようもできない。別れたことがとても辛かった。
出会いと別れ、それが人生において重要であり必須でもあることは理解できているつもりだが、
どうしても自分を納得させることができなかった。

納得できない。なぜ、ボクたちは別れなければならなかったのだろう?

色々な想いが巡り、つい彼女の言葉を遮って「昔の話はもういいんだよっ!」と怒鳴った。
しばらく沈黙が続いた後、電話を切られてしまった。虚しく、ただ ツー、ツー、と受話音が響く。
もうどうしようもなくて、その場に泣き崩れてしまった。

四つんばいになって泣いているボクの目に、女性の足が映った。
ゆっくり顔をあげると、そこに彼女が立っていた。
黙って、涙を流していた。

「帰ってきてくれたんだ・・・?」
その問いかけに、黙って首を横に振る彼女。涙が彼女の足元に落ちる。とても悲しい顔をしている。


その日、ボクたちは酔っ払っていた。
毎日が楽しくて、一緒に居るだけで幸せだった。ずっと、傍に居てほしかった。
その日、ボクが小さな小箱に入れた大きな約束を渡した。彼女は頷いてくれた。
お互い嬉しくて、嬉しくて、少し飲みすぎた。

まだ電車がある時間だったけど、その日はタクシーで帰ることを勧めた。
タクシー代出すからと言うボクの、千円しかない財布を見て彼女は笑った。とてもステキな笑顔だった。
ボクは彼女に恋をしていた。愛していた。彼女と一緒に暮らすことができればどれだけ幸せだろうと思った。

−−−そう、その日、タクシーは事故に巻き込まれた。
交差点を渡ろうとしたところを、信号無視してきた車に突っ込まれた。
タクシーの後部座席は、紙切れを丸めたかのようにぐしゃぐしゃにつぶれた。
居眠り運転をして突っ込んできた相手も、タクシーの運転手も奇跡的に無傷だったが、彼女に奇跡は起きなかった。

ボクは相手を恨むことも、神様を恨むこともせず、悲しみに明け暮れた。


気が付くと、彼女はいなくなっていた。
”アレ”はなんだったのか。
メールはボクがやっていたのか?ボクはボクに尋ねていたのか。
彼女が消えた方向に向かって手を振った。強く、強く。
ようやく気が付いた。ボクはひとりだった。本当のひとり。彼女はこの世界に、すでに存在していなかった。

深い悲しみがボクを襲った。いや、すでに死別したときから襲われていたんだ。
ボクは自分を守る為、彼女の”死”を記憶から消したんだ。

ボクを哀れに思い、姿を現してくれたのだろうか?それともボクの作り出した幻想?
そして、ボクの電話の相手はいったい・・・?
なんでもいい。なんでもいいから、もう一度会いたい。彼女の顔を見たい。彼女の頬に触れたい。キスをしたい。
その場に伏せて、また声を挙げて泣き叫んだ。

声が聞こえたような気がして顔を上げた。彼女の立っていた場所に、瞳から溢れた涙の後が残っていた。
−−−そっと触れてみた。少しだけ、元気になれた気がした。

彼女を忘れることはできない。
彼女を失った傷は一生残るだろう。
だけど、このまま立ち止まるつもりはない。
ココからボクは歩き出す。行き先のない地図を描き現在地を記した。そしてコンパスは再び回り始めた。
コンパスは行き先を示さないまま回り続ける。だけど、ボクは歩き出す。立ち止まらないために。
彼女を今でも愛している。そしてこれからもずっと。



Bump Of Chicken の 6th Maxi Single「ロストマン/sailingday」の「ロストマン」という曲を、またまた裏読みしてみた。
普通に歌詞を読んだら、別れの歌なんだろうけど、彼女とは死別したことにして、ちょっと病んでる「ボク」を書いた。
タクシーで死亡する話は「デッドゾーン」って小説からのパクリなんだけど、タクシーでさよならしたら二度と会えないって怖いよね。
彼女さえいれば〜というくだりは、高校の頃の自分を重ねていたりする。あんときゃ若かったなぁ'`,、('∀`) '`,、