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テキスト 『メロディフラッグ』


「ラララ・ラ〜ラ〜ラララン♪」
「なにソレ?なんかの歌?」
突然ユウキが歌いだしたのでミカは少し驚いた表情だった。
突拍子の無い行動でいつも驚かされる。だけどソコがまた好きなところだった。
「ああ、メロディフラッグだよ。」
「メロディフラッグ???」
ユウキは子供のような笑顔を、顔いっぱいに広げてミカの方を向いた。
「誰かに思いを伝えられるメロディなんだよ。」


『メロディフラッグ』


東京は暑い日が続いていた。
ユウキはチャコールグレーの三つボタンスーツに身を包み、ビルの合間を縫ってお客となる会社を回っていた。
髪の毛を少しこげ茶に染めてはいるが、いやみの無い顔つきに合っていて爽やかな雰囲気の男だ。
営業ではないが、自社のERP製品を紹介する為のデモンストレーションを顧客企業先に出向いて行っていた。

営業では専門的な質問に答えられないから、との理由でこの役がまわってきた。
この人選は大当たりとなった。技術力については問題なかった。そのうえ営業活動もそつなくこなした。
初めは営業の人間も一緒について回っていたが、ひとりでも行ける、と判断された。

営業のようにお喋りが旨いわけでもないが、元来の人の良さと、屈託のない子供のような笑顔が客に受けた。
客は製品よりユウキを買っていたので、購入後もサポートの電話や
バージョンアップなどの打ち合わせなどにも、ユウキが指名されていた。

ユウキはこの仕事が嫌いではなかった。自分が作ったもので誰かが喜んでくれる、それが嬉しかった。
だが、いつかは仕事を辞めるつもりでいた。彼には夢があった。磨り減り形の歪んでしまった夢が。

今年の盆休みは鹿児島に帰る予定だ。18歳で鹿児島から上京して、すでに7年が経っていた。
最後の1社でのデモを終えて会社に連絡を入れ、家に戻り、父親に連絡をした。
「明日帰るから。」「おう、そうか。気をつけてな。」
簡単な会話を交わして電話を切る。母親が死んでからというもの、めっきり老け込んでしまった。
母親は上京してからすぐに体調が悪くなり、あっけなく死んだ。末期の肺がんだった。
せめて苦しまなかっただけでもよかったと思う。


次の日ユウキはひとりで鹿児島の沢原(さわら)高原に立っていた。
空港から街まで、バスの中から見た景色は、記憶している景色と大きく異なっていた。
が、この風景だけは変わらない。昔、ミカと約束をしたときのままだった。
目の前にはキレイな緑色の景色が広がっている。360度すべて草原だ。
山から流れてくる風がとても心地良く、東京よりも気温は高いのだが、とても清々しい気分になったように感じた。

「ここに来れば思い出すと思ったんだけどなぁ」
ひとりつぶやいて、大地に両手を広げて仰向けに寝転がった。

14歳の頃、ふたりっきりでよくココに来た。
めったに人がこないし景色もきれいだったので、ふたりともこの場所が大好きだった。
「ねえ、ユウキの夢ってなーに?」
「夢かぁ、そうだな、歌で飯を食べることかな?」
ふたりは大の字に仰向けになって話をしていた。あの頃は楽しい日々がずっと続くものだと、ユウキは思っていた。

「歌手になるってこと〜?ユウキそんなに歌うまかったっけ?」
「バカ、歌はこれからうまくなるんだよっ!・・じゃあさ、ミカの夢ってなんだよ?」
「えー?わたし?えっと・・・ユウキと結婚することかな?」
「はぁ?なに小学生みたいなコトいってんだよ?」
「いいじゃない別に。バーカバーカ」
ミカが草をむしってユウキに投げつけた。
「なんだよやめろよーっこのっ」ユウキが上に覆いかぶさって両手を押さえつける。
お互い無言で見つめあった。しばらく見つめあったあと、ユウキが顔を下げてキスをした。

「あのさ、ひとつ約束。約束っていうかお願い。」
「どうしたんだよ、改まってさ。」
「ユウキの夢叶ったらさ、迎えにきて。わたしソレまでずっと待ってるから。」
「え?でもいつになるかわかんねーぞ?それでもいいのか?」
「いいの。夢が叶うまでいつまでもまってるから。」
「わかった。じゃあ夢が叶ったら必ず向かえにくるよ。約束だ。」
「うん。約束ね。」
ふたりは頷きあって、そしてまたキスをした。

−−−約束はもう果たすことはできない。
ユウキの頬に涙が一筋流れた。歌手になる、という夢が磨り減ったのは、現実にぶつかっただけではない。
ミカは、母親が死んだ翌年、交通事故で死んだ。ダンプカーの居眠り運転事故に巻き込まれて即死だった。
目標−−−ミカを迎えに行く−−−が無くなり、音楽活動も行き詰まり、そして仕事という夢の逃げ場も出来てしまった。
夢を諦めるには充分すぎるほど準備が整っていた。

「もう、終わりかな。」そうつぶやいた。
その時、風に乗って鐘の音が聞こえた。遠くの山の山頂にある教会の鐘の音。
ゴーン、ゴーン、ゴーン・・・

突然、ユウキは上半身を勢いよく起こした。
「思い出したっ!そうだ、このリズム、、これだ。」目から涙が大きな粒となって流れた。
刹那、目の前にミカが立っていた。白いワンピースに身を包んで笑顔で立っている。
「まだ、夢は叶うよユウキ。がんばって。」そう聞こえた。
涙目をこすると、そこにミカの姿は無かった。


「・・・・そうだね、ミカ。まだ終わっちゃいない。夢はまだ終わってない。
いつかキミに想いが届くよう、歌い続けるよ。」
ユウキは立ち上がり、そして走り出した。
もう迷わない、立ち止まらない。

−−−遠い約束の歌、そして深く刺した旗を、ミカをずっと忘れない。



Bump Of Chicken の 3rd Album「jupiter」の「メロディフラッグ」という曲が好きで、その歌詞をショートストーリーにしてみた。
勝手に恋人が死んでいたり、ムリムリ歌詞をつないで見たりと、読み返してみると恥ずかしい。ノ(´д`*)